二代目水嶋ヒロ短編集

クリスチャン・ラッセンのような詩が書きたかったんだ── 四人の男が奏でるメロウで残酷なラブソングたち

二代目水嶋ヒロ短編集

STORY

菊池良

「美少女アイドルの顔を切れ!」

浅野いにおはウンザリしていた。くそったれな日常に。くだらないクラスメートたちに。
いにおの渇いた心を癒してくれるのは、アイコラだけだ。芸術に青春をかけた少年少女のラブストーリー。

カネタヒデヒト

「崖の上のカニョタ」

ストロベリーマシュマロ王国の王子カニョタはピュアでチェリーな29歳。国の決まりでは、30歳までに男にならなければならず、カニョタは旅に出ます。
童貞をめぐる心暖まる冒険ファンタジー。果たしてカニョタは運命の相手と出会えるのか? そして大橋のぞみちゃんとの恋の行方は?

柴田慕伊

「鬼龍院満子の華麗なる生涯」

満子の人生は、生まれたときから深い霧に包まれていた。普通に読めば「みつこ」。だが、こうも読める。まん──。
「名前」という抗えない運命に立ち向かった、一人の女の生涯。

滝月リュウジ

「きんたまがかゆいだけのおじさん」

フリーターの「僕」には何にもなかった。きんたまがかゆいだけだ。
本当にそれだけなんだ。

TRAILER

AUTHOR

  • 菊池良 表現者。AR十三兄弟(十男)。

  • カネタヒデヒト 素人童貞。

  • 柴田慕伊 無職。

  • 滝月リュウジ フリーター。

DEMO

菊池良「美少女アイドルの顔を切れ!」

どんな人でも、生きていれば、いつか必ず美しくなれる時期が来る。 ──アンディ・ウォーホル

 世界中に愛されたポップ・シンガーのマイケル・ジャクソンは「あなたの最高傑作はなんですか?」と聞かれたら、こう答えていたという。

「ディス・イズ・イット」(最新作さ)

 浅野いにおのアイコラも、常に最新作が最高傑作だ。モニター画面には一人の女性が映っている。いや、二人と言うべきか。福原遥の顔と、滝沢乃南のボディーが画面を総天然色で彩っている。

「マリアージュっていうのは、こういうことさ」

 そう呟いて、いにおはインターネット・ブラウザーを開いた。ホーム画面にはツイッターが設定されている。いにおのアカウント「THE NEET M@STER」のフォローは四六二。フォロワーは一一二三。ソーシャル・ネットワークでの「カッコ良さ」は容姿では決まらない。フォローとフォロワーの比率で決まるのだ。いにおはフォローを増やさないようにして、この黄金率を崩さないようにしている。

 キーボードを高速でタッチ・タイピングすると、思考と同じ速度で文字ができあがっていく。

「新作できました。まいんちゃん feat. 悩殺マシュマロBODY」

 画像を添付し、投稿ボタンを押した。すぐさま反応が返ってくる。ソーシャル・ネットワークはいつもリアルタイムだ。

ドリカム人面犬おじさん @kimi_ga_ita_natsu
瞬殺でオカズにした。その時間、実に0.2秒。 RT @this_is_it 新作できました。まいんちゃん feat. 悩殺マシュマロBODY pic.twitter.com/MWFFwAEBjc
シャブ&飛鳥とユメミる仲間たち @forever_loves
@this_is_it 何故だろう。涙が止まらない。勃起も止まらない。神さま、ありがとう。
処女捨て島上陸作戦 @how_does_it_feel
三島由紀夫にこの画像を見せたかったよ。あなたが憂えた日本文化はここまで進化しましたよ、って。 >RT

 すぐに反応を寄越した「ドリカム人面犬おじさん」はいつも感想をくれる優良フォロワーだ。おそらく幼女アニメばかり見ている無職のおっさんなのだろうが、いにおは彼のことが大好きだった。

 リプライ一つ一つに、お気に入りボタンを丁寧に押していく。愛を込めて。

 その時だ。

 声が聞こえてきた。いにおの耳に、不確かな声が。

「い……お……いに……お……いに……」

  意識の奥底に語りかけるこの声は何だろうか。どこか懐かしく、それでいて不穏な気持ちも呼び起こす、この声は。

つづきは紙で。

カネタヒデヒト「崖の上のカニョタ」

 の、の、のぞみちゃん……! カニョタは高鳴る鼓動と高なるオチンチンをおさえながら、愛する大橋のぞみちゃんのもとにかけよりました。

「カニョタくん。あたしはね、カニョタくんのことが世界でいちばん大好きだよ!」

 う、うん、僕ものぞみちゃんのことが大好きだよ、だから今日はのぞみちゃんのたいせつなところをポニョポニョしてもいいかい? カニョタはそう言うとのぞみちゃんの薄ピンク色のスカートをめくりあげました。するとそこからあらわれたのはのぞみちゃんの白いパンツではなく、大きなハサミでした。のぞみちゃんはそのハサミを大きくひろげると、ちいさくはにかんでカニョタの股間をみつめました。チョーキチョキ、チョーキチョキ、チンポくさいな、きっちゃおう。そしてのぞみちゃんがカニョタに近づいて「えいっ!」とひとハサミでチョッキンチョ、瞬く間にカニョタの股間から血しぶきがあがりました。うぎゃあああぁぁぁあああのじょみじゃあああぁぁぁあああん!

 ……大きな叫び声をあげながらカニョタが夢から目を覚ますと、部屋一面に飾られたのぞみちゃんのポスターがいっせいにカニョタをみながら、にこやかに笑っていました。

つづきは紙で。

柴田慕伊「鬼龍院満子の華麗なる生涯」

 男なんて死んじまえ! 私は知ってる。男の頭の中はまんこしかない。何度人類が滅亡して男どもが肉体再生を繰り返し、魂をスパークさせても結局のところ、何年、何十年、何億年、彼らの脳内パルスへ送られる電気信号の中身はまんこ情報以外にはありえない。どれほど男達が哲学的で崇高な演説を世界を見通したかのような素振りで語っていても結局、最終的にはまんこに関することしか言っていない。海の幸であるアワビを食べる時でさえ彼らはまんこを想像しニヤついているのを私は知っている。男という生き物はなぜこうも悲しいくらいに低脳なんだろう。まんこのためだけに生きて、まんこのためだけに労働者階級に介入し社会の奴隷として一生を終える、それほどまでにまんこに身を捧げて自分という存在を消してしまいたくならないんだろうか。そもそも私はまんこが嫌い。まんこの存在を認めてないし非公式。まんこさえなかったら私の人生きっと変わってた。

 私だって生まれた時からまんこが嫌いだったわけじゃない、ていうか子供の頃はまんこなんて知らなかった。馬鹿な男達も幼い頃は私をみっちゃん、みっちゃんって呼んでたし、その頃はまだ男をまともな生物として見ていたと思う。小学五年生の時、クラスメートのある小太りの吉郎が帰り道に私の前に立ちふさがった。

「おーい! まんこ~! おまえまんこだろ!? まんこー!」

 まんこって何? って思った。まんこなんてそれまで今までテレビでやってた餃子一日一万個の餃子の王将CMぐらいしか聞いたことがなかったし、吉郎の言うまんこの前には数字がついてなかったからなんのことを言ってるのかまったくわからなかった。でも吉郎が私に対して“おい、まんこ~”と言った声のトーンがどう聞いても私を見下したかのような言い方だったので、すぐにバカにされているんだとわかった。

「は? なにがよ! まんこってなによ!」

「まんこはまんこだよ。おまえはどう見ても完全にまんこー!」

 そのふざけた態度が一向に収まる気配がないので私は吉郎に掴みかかり「言いなさいよ! まんこってなんなのよ?」と詰め寄ったが吉郎の力は強く「うるせえ!」とあっさりと私は後ろに突き飛ばされた。その先には昨日降った大雨によって出来た水溜りが広がっており私の体はその中に投げ出され、お尻の付いた衝撃によって濁った水が辺りへ飛び散った。泥水は私の履いていたピンクのスカートを一瞬で茶色に染め、下着にも浸かった水が地肌に冷たさと気持ち悪さが下半身から伝わってきた。先週親に買ってもらったばかりのお気に入りだったスカートが泥に塗れているのを見て私は怒りと悲しさで涙が頬を伝った。泣く時に声は出さなかった。その涙に気が付いた吉郎は「やべっ! 」と言ってすぐに私の前から消えた。立ち上がりスカートから滴り落ちる黒い水滴にも目もくれず私は自宅への道を歩き出す。途中、泥だらけで涙を流しながら歩く私に気付いた老人が心配して話しかけてきてくれたが、無視した。私は今、優しい言葉より熱いシャワーや新品のお洋服よりもまんこの正体が知りたかった。私をこんな目にあわせたまんこってなんなのか。心配して話しかけてきてくれたじいさんに聞いても素直に教えてくれるとは思えない。家に帰ると出迎えた母親が私の姿を見てびっくりしながら駆け寄ってきた。どうしたの? という疑問を相手が投げかける前に私の中に今ある最大の疑問を伝えなければいけない。

「ねえ! お母さん! まんこって何?」

つづきは紙で。

滝月リュウジ「きんたまがかゆいだけのおじさん」

 きんたまがかゆいだけのおじさんになってしまった。かゆい、かゆい。かゆゆんかゆゆ、かゆゆかゆ。僕はボリボリときんたまを掻いた。僕にはきんたまがかゆいこと以外に特徴が無いことに気づいてしまったのだ。今までの人生、何をしてきたのか全然思い出せない。記憶喪失ではない。なんというか、ピンとこないのだ。自分の人生に。それはそれとしてこれからコンビニのバイトの時間である。行かなければ。

 出勤のタイムカードを押し、着替えてレジに入った。

「いらっしゃいませー!」

 店長の明るい声が響き渡る。

「あせー」

 俺もやる気の無い声を出した。

「チキンをひとつくれ」

 客の注文がきた。

「あすー」

 そう答えると、僕は間違えて肉まんを渡した。

「これ、肉まんだろ? 何間違えてんだよ、こっちは忙しいんだ」

 客は怒り気味に問い詰めてきた。

「あー」

 僕はやる気無く返事をして、チキンを渡した。そうしてきんたまをボリボリと掻いた。かゆい。

「謝罪の言葉もねえのかよ! 何を金玉掻いていやがんだ、クソが!」

 客は怒って店を出ていった。

「……」

 店長は責めるような目で僕を見た。

「ちょっと佐藤くん、裏に来てくれる?」

 佐藤というのは僕の苗字だ。店長に呼び出されてしまった。

つづきは紙で。

STAFF

著者
カネタヒデヒト
菊池良
柴田ボイ
滝月リュウジ
装丁・DTP
鈴木梢
企画協力
碇本学
板井仁
オガワタカヒロ
架神恭介
連絡先
nakchik★gmail.com